-total eclipse-書架

FTM作家・結州桜二郎(ゆいすおうじろう)の小説ブログ。

皆既日蝕⑪

実家に到着し、インターホンを鳴らした。美結の実家は二世帯住まいなのだが、すぐに義祖母が出てきて驚いた様子でこう言った。
「あら、どうしたの」
いくら一階と二階で別々で暮らしているからと言ってこのリアクションはおかしい。すぐに察知したが僕は平静を装った。
「いや、美結さんが来ている筈なんですけど。お母さんが具合悪いそうで」
「いやあ、来てないと思うけどね。まあ良いから上に上がって」
そう言われ、二階へと通された。階段を登りきってすぐの所に在るドアを開けると、ちょうど向かい合わせるような形でダイニングチェアーに凭れ、血色の良い顔付きで扇風機の風で涼んでいる義母の姿がそこには在った。
「どうしたの、突然」
義祖母と同じリアクションである。
「美結さん来てませんか?昨日お母さんの具合が悪いから泊まりがけで看病をすると言ったまま帰って来なくて、今朝から連絡が取れない状態なんですけど」
「昨日車貸したっきり来てないよ。私別に体調悪くないしね。どうしちゃったんだろう……」

「昨日美容院の後にアカネちゃんとお茶しに行って、その後お母さんの看病するから泊まるって連絡があったんですよ。それで今朝にはこれからお姉ちゃんと一緒にお母さんを病院に連れて行くってメッセージが来て、それきり連絡がつかなくて……」
抗不安薬の効果もあり、僕は淡々と状況を説明することが出来た。薬の力を借りなければ恐らく感情的になって最初から取り乱していただろう。
「お姉ちゃんは朝から友達とバーベキューに出掛けてるから一緖に居るってことはないと思う。アカネの家すぐ近くだから一緒に行って話聞いてみようか」
義母にそう言われ、二人で徒歩二分程の所に在るアカネちゃんの実家へと向かった。幸いにもアカネちゃんは在宅中で話を聞くことが出来た。昨日の午後から夕方にかけて一緒に居たのはどうやら本当らしかった。だが、その後美結は用事があると言って数駅離れた繁華街のある地まで電車で向かい、それきり連絡はとっていなかったらしい。
 互いに美結と連絡がつき次第報告をし合う約束をして、僕と義母は実家へ戻った。するとちょうど義父も間もなく帰宅したのでことの経緯を説明すると、皆が皆こぞって美結に連絡をして、混乱状態となってしまった。
「近頃物騒だし、もしかしたら変な事件に巻き込まれてるかもしれない。もうちょっと待ってみて連絡が来なかったら警察に捜索願を出そう」
義父にそう言われ、僕はただ頷くしか出来なかった。
 それから十分も経たないうちに実家の固定電話の呼び出し音が静寂を切り裂くように鳴り響いた。義母が電話に出たところ、どうやらアカネちゃんからだったようで、美結と連絡がつき、未だに繁華街がある駅の界隈に一人で居るとのことだった。それから直ぐさま義母が車で出掛けている出先の義姉に連絡を取り、迎えに行ってもらうこととなった。一同は安堵の表情を浮かべ、どうにか警察沙汰にはならずに済んだ。
「娘が心配かけて申し訳ない。まったく何をやってるんだ、あいつは」
義父は僕に謝罪し、怒りも露わに呆れた表情を浮かべていた。
「本当にごめんなさいね。お姉ちゃんが迎えに行ってくれてるから、良かったらそれまでお義父さんと飲んでて。心配してお腹も空いたでしょう」
そう言って義母はつまみとビールを振舞ってくれた。来る前に抗不安薬オーバードースしてきたことは疎か、精神科に通院していることすら告げていない手前、折角供してくれたビールを断われず、恐る恐るちびちびと飲んだ。僕は九州男児の血筋が入っていることもあり酒には強い方だと自覚しているが、この時の酔いの回りようは凄まじいものだった。恐らく量にして二百ミリリットル程度だと思うが、コップ一杯のビールで泥酔状態になってしまった。
 義父母と三人で過ごした時間は一時間程だっただろうか。やがて美結が義姉とその婚約者に連れられて帰ってきた。先日の朝帰りの時のような憔悴しきった顔付きとはまた少し違った、太々しさを孕んだ表情がそこには在った。

 

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