皆既日蝕②
饂飩が好きだと前に聞いていたので、富士吉田の人気店に赴いたがお盆期間中だったこともあり、生憎店は休みだった。
「ちゃんと調べてから来れば良かった。ごめんね」
「全然良いよ。ドライブしてるだけで十分楽しいし」
美結は笑顔でそう言ってくれた。敢えて明確な言葉にせずとも彼女の方にも好意があることがひしひしと感じられた。
帰り際、闇夜に抱かれてすっかりと暗くなった車の中で、僕の方から愛の告白をし交際を申し込んだ。僕たちは固く手を握り合い、しっかりと互いの想いが重なり合っていることを実感した。
この時から二人の関係は始まり、一年後には婚約も兼ねて結婚を前提に同棲生活を開始するに至った。些細な喧嘩をすることはあっても大喧嘩をしたことは一度もなく、僕らの関係性は極めて良好であった。波長が合うから会話の内容にはいつも事欠かなかったし、年が離れているお陰で過剰にぶつかり合わずに済んだのかもしれない。
僕が見初めた通り、美結は歳月を重ねるにつれてどんどん綺麗になっていった。日増しに自分の理想の女性像へと変貌していく彼女を、僕は独り占めしたいと思った。
同棲から約一年後、共同生活をした上で相性に問題がないと互いに判断した僕たちは、美結が体調を崩して突如正社員として働いていた仕事を辞めたこともきっかけとなって、遂に婚姻関係を結ぶに至った。
しっかり者で美人でよく尽くしてくれる美結は、僕にとって自慢の妻だった。結婚後、貯金を始め翌年四月に美結の実家の近くのアパートに転居した僕たちは、仲睦まじく暮らしていた。
初めての結婚記念日当日である七月十六日。約一ヶ月前にオーダーをしておいた結婚指輪を受け取りに、二人で表参道に在るジュエリーショップへと赴いた。僕たちの入籍は急なものだったので、まだ挙式は疎か指輪の交換もしていなかったのだ。太陽をモチーフにしたシャンパンゴールドの指輪をお互いの指に嵌め合って、僕たちは永遠の愛を誓い合った。そして、六月に飼い始めたばかりの愛犬といつまでも幸せな日々を送ることを約束した。
しかし、その幸福の絶頂の僅か数週間後に事態は一変する。
FTM作家桜二郎のブログ『皆既日蝕 -total eclipse-』