-total eclipse-書架

FTM作家・結州桜二郎(ゆいすおうじろう)の小説ブログ。

皆既日蝕①

 幾千もの流れ星のように乱反射した陽光が群青の空から降り注ぎ、嚆矢の如く心臓を貫いた。幸福だった筈の僕は突如地獄の底へと墜落していったのだ。仮初めの太陽は消失し、僕の両目から光を奪った。そして一つの悟りを与えたのだ。この世に存在する真実は一つのみであるということを。

 


第一章

 二〇一四年七月、僕は結婚一周年を迎えていた。

 妻の美結とは三年前に僕が正社員候補として採用された大手居酒屋チェーンの店舗で知り合った。彼女はそこでアルバイトをしていたのだ。六歳年下の彼女はまだまだ幼く、出会った当初は恋愛対象にはなり得ないだろうと思っていたが、共に働き会話を重ねていくにつれて人間性が垣間見え、惹かれていった。さばさばとした外面的な性格とは裏腹に心の奥底に深い闇を抱えていて、その意外性に僕は魅了された。この子とならまた恋愛することが出来るかもしれない。否、この子と恋がしたい。そう思った。
 奇しくも出会いから丁度二ヶ月目の日に僕たちはドライブデートをした。美結の自宅近くのドラッグストアーの駐車場まで迎えに行く約束をしていたので、到着してから車を停めてメールを送った。すると十分程で美結はやって来て、助手席に腰掛けるなり僕にペットボトルの紅茶と緑茶を差し出した。
「どっちがいい?」
僕は紅茶を受け取った。
「ありがとう」
 この日の美結は仕事に来る時の簡素な服装とはまるで違い、化粧も明らかに普段より濃かった。僕の為にお洒落をして来てくれたんだな、と嬉しく思った。他愛もない話をしながら車を走らせ、山中湖の辺りまで行き湖畔を眺めた。真夏の快晴の太陽を照り返した水面は眩く光り輝いてきらきらと美しく、都会では感じられないような爽やかな風が頬を打って、なんだかこそばゆかった。ちらりと覗き見た美結の横顔は、プラチナ色の陽光を受けて透き通るように白く、しかし、くっきりと浮かび上がって僕の目を捉えた。まだ二十一歳であったが、彼女の顔立ちは美しく、先天的な美貌を兼ね備えていた。それまで年上の女性にばかり恋い焦がれてきた僕であったが、彼女の日本人女性らしいシャープな目鼻立ちと、ワンレングスのロングヘアが似合う形の良い額と、何処かつんとした雰囲気に見惚れた。

 

FTM作家桜二郎のブログ『皆既日蝕 -total eclipse-』

 

 

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